ソリューション事例

有機溶剤ゼロエミッション事例(2) ~実験室の空気を汚すポンプの排気ガス中の有機溶剤を無くしたい~

 実験室の空気を汚すポンプの排気ガス中の溶剤を無くしたい。その解決策があります。クールトラップはそのために開発された装置です。何故、排気ガス中の溶媒を無くせるのでしょうか? ウルフ瓶とクールトラップがこの問題を解決します。

図1 クールトラップとウルフ瓶によるゼロエミッション例

 実験室においては、溶剤精製作業などから出る排気ガスは、冷却トラップ等により溶剤蒸気を捕捉した後に放出されるのが一般的です。例えば、ロータリーエバポレーターを使用した溶剤の蒸留回収の場合、一次冷却トラップであるエバポレーター内部の冷却管で凝縮・捕捉し、その後はそのまま系外に排出されることが多いと思います(図1左)。しかし、溶媒の種類や捕捉条件によっては、溶剤蒸気の多くが回収されずに環境に放出されている状況が多々あります。

  当社は、一般的な溶剤補足設備に加え、更に2次的な捕捉手段を加えることで、環境に排出される溶剤蒸気「ほぼゼロ」を実現する提案をしています。より具体的には、「クールトラップ」と「ウルフ瓶」を組み合わせたシステムです(図1右)。

 以下に、具体的な例を説明しながら本システムについてご紹介します。

 

1.クールトラップとウルフ瓶による高度回収

 

 上記2つの系(図1)で、どの程度差があるでしょうか?一例として、実験室でよく行われるロータリーエバポレーターによるメタノール回収について検討してみましょう。

  【仮定条件】

  ・溶剤:メタノール
  ・加熱浴温度:50
  ・系内圧力:53 kPa50℃におけるメタノールの蒸気圧)
  ・エバポレーターのコンデンサ冷却温度:5℃(この温度におけるメタノールの蒸気圧は5 kPa

  上記の条件では、加熱浴が50℃でエバポレーターのコンデンサーが5℃であり、それぞれの温度におけるメタノールの上記圧の差分だけ凝縮して回収されることになります。つまり5℃におけるメタノールの蒸気圧分は回収できずにポンプからの排気ガスに混ざって系外に排出されることになります。さらに、ガラス製冷却管の冷却効率、溶剤蒸気の性質(蒸気圧、比熱、比重等)、ミストの発生状況、装置の気密性不足などの様々な要因が影響し、真空ポンプ側に溶剤蒸気を含む気体が移動して行き、溶剤蒸気が系外にどんどん漏洩するという状況になってしまいます。

図2 一般的なエバポレーター回収系によるメタノール回収システムの例

 そこで、ポンプからの排気ガス中の溶剤蒸気を更に徹底的に取除こうという目的で設計されたのがクールトラップです。クールトラップは、ウルフ瓶と併用して使用することにより最大限の効果を発揮します。それでは、クールトラップ、ウルフ瓶を追加した系を検討してみましょう。

 

図3 クールトラップとウルフ瓶をポンプの後に追加した例

  以下、順を追ってメタノール蒸気回収の様子を説明します。

 

1)ロータリーエバポレーター本体による回収ステップ

 ロータリーエバポレーターにおいて50℃/53 kPaで沸騰し蒸発したメタノールは冷却管で5℃に冷却されることで蒸気圧5 kPaまで低下しその差分が凝縮回収されます。5 kPaの蒸気圧分はエバポレーターの冷却管で凝縮されずに系外に出て行きます。エバポレータから出た排ガス中のメタノールの割合は1/105kPa/53kPa)になります。

 

2)ウルフ瓶による排ガス中のメタノール蒸気の濃縮ステップ

 次に、この排気ガスは減圧状態(53 kPa)からダイヤフラムポンプを経て常圧(101 kPa)に圧縮されてウルフ瓶に入ります。ここで、メタノールの蒸気圧も、5 kPaから10kPaまで増加ます。実際には、エバポレーター冷却管での熱交換効率が低かったりミストとして系外流出する場合もあるためにメタノールの流出量は更に多くなります。

 減圧状態が安定している状況では、ダイヤフラムポンプから流出するガスが微量であること、冷却管通過時の低温をまだ保っており且つ溶剤蒸気との混合ガスであるために周りの空気よりも重いことから、ウルフ瓶の底にまだ冷たい状態で徐々に蓄積していきます。蓄積する間にメタノールは室温(20℃)の気液平衡状態に達し、メタノールの蒸気圧は飽和蒸気圧(13 kPa)になると考えられます。このように、ダイヤフラムポンプを経てウルフ瓶に滞留する間にメタノール蒸気は見かけ上濃縮された状態になります(濃縮効果)。

  

3)クールトラップでの回収ステップ

 ウルフ瓶を経た排気ガスは最終的にクールトラップに導入されます。クールトラップの冷却器はガラスの100倍以上熱伝導性の良いステンレス製であることとその形状設計から効率よく排気ガスの熱交換が行われること、排気ガスの流量が少なく滞留時間が長いことから、冷却器内でほぼ平衡状態に達していると想定できます。クールトラップの冷却温度(―35℃)ではメタノールの蒸気圧は0.1kPaとなります。これはウルフ瓶(13 kPa)の1/130の濃度であり、系全体では1/1300(約770pm)の濃度になると想定されます。

 そして、クールトラップでは排気口の手前に活性炭層(カートリッジ式、消耗品)を設けており、最終的には活性炭による吸着を経て、排ガス中のメタノール量はほぼゼロの状態で系外に排出されることが見込まれます。

 

2.より回収しづらい溶剤蒸気の回収を想定した場合の例

 低沸点の溶剤を回収したい場合やより完全な回収を目指したい場合には、エバポレーターの冷却温度を下げるか、より回収効率の良い弊社のエコクレールのようなものを併用するのが効果的です。

図4 エコクレールとクールトラップを併用した系

 エコクレールもステンレス製冷却器を採用しておりクールトラップとよく似た設計の溶剤回収装置ですが、減圧系で使用できるのが大きな違いです。また、1次回収段階で使用できるよう冷却出力も大きく設計されています。

 図4は、同じくメタノールを回収するシステムを想定していますが、エコクレールを使用することでさらに効率よくメタノールを回収することが可能になります。

 

3.クールトラップとエコクレールの仕様比較

 このように、クールトラップとエコクレールを使うことで実験室における溶剤蒸気放出を極限まで減らすことが可能になります。

 最後に、両製品の主な仕様を表1に示します。

 

表1 エコクレールとクールトラップの比較表

 

4.まとめ

 このように、エコクレールやクールトラップを適切に使用することで、有機溶剤の回収系における排気ガス中の溶剤蒸気(VOC)をほぼゼロレベルにまで低減することが可能になります。

 今回、メタノールの回収を例に説明しましたが、溶剤の種類によって様々に条件が異なってきます。溶剤回収でお困り事がありましたら弊社までお気軽にご増段ください。